注入オタク院長ブログ 〜保険診療と自由診療〜

全国の公立病院の7割が赤字となり、大学病院でも巨額の赤字が出ているとニュースで報じられています。これは直近の保険点数の改定も影響していると考えられますが、保険点数は年々下げられているため元々経営的に厳しい状態のところにダメ押しとなったのかもしれません。

病院やクリニックは診察や治療を行うことで売上をたてますが、患者様から受け取る治療費が売上の全てではなく、国からの診療報酬を得て初めて治療費用100%となります。一般的には治療費用の70%を国が負担しますので、患者様が支払うのは本来の治療費用の30%です。ただし、数百万円の費用がかかる手術などの高額治療はたとえ30%であってもかなり高額になってしまいます。そのような場合には高額医療費制度があって、収入に応じた上限額を支払うことでその治療が受けられます。その上限は10万円程度から30万円以上など幅があり、収入によって決まります。

ちょっと複雑なことを話しましたが、これが実は保険診療と自由診療に関わってきます。ポイントは治療費用の設定と、誰が払うのか、です。

保険診療は治療費用の70%以上、場合によっては98%以上を国が負担してくれます。これは非常にありがたいシステムですが、そのおかげで国の医療費が莫大になり、財政を圧迫しているのですが、その問題は政治の話にもなりますのでここでは置いておき、ポイントに絞って見ていきます。保険診療は国が負担してくれるから国民にとってありがたいシステム、というメリットに隠れてあまり気付かれていないことがあります。それは、治療費用は国が決定しているということです。

保険診療の治療費用は医師や病院が勝手に決めているのではなく、全て国が決めて管理しています。医療費のほとんどを国が負担するので当たり前とも言えますが、問題はいくら病院が良い治療を提供したくても治療費用の上限が決められているため、経営を成り立たせるためにはサービスや治療の質をとことん追求することが難しい構造になっています。そして、質を向上させるどころか、治療費の上限を下げられているため、普通に経営しようとしても赤字になってしまうリスクがあり、今まさにそのような状況になっています。

では、病院が勝手に治療費を高くすれば良いじゃないか、と思ったとしてもそれができないのが保険診療です。とある手術の費用が100万円と決まっているものに対して、うちの手術はレベルが高いから200万円にしようとしてもそれはできません。どんなに質の高い手術を行なったとしても100万円です。普通に手術しても100万円です。

実は、病院も治療費を勝手に設定することはできるのですが、その場合は国からの補助がない状態、つまり自由診療で行う必要があります。サービスや技術に自信があり、通常100万円の手術を200万円で提供することは可能なのです。しかし、患者側から見ると、保険診療の病院に行けば10万円の支払いで済む手術を、自由診療の病院に行くと200万円かかるとなれば、わざわざ自由診療の病院に行く人はあまりいないでしょう。

アメリカのように保険診療制度があまりなくて、基本的に自由診療の国では全く状況が異なりますが、日本は国民皆保険の国なので、医療において自由競争がなく、治療費を変えられない病院にとっては他との差別化が難しい、つまり経営が難しい国です。その結果が、診療報酬の改定により治療費が下がり、病院経営が赤字化します。

では、赤字にならないように経営すれば良いではないか、たとえば治療費用が払えない人には治療をしないようにすれば良いんじゃないかと言われると確かにその通りなのですが、困っている人を見たら手を差し伸べる、病気で苦しんでいる人がいたら費用の話の前にまず治療をする、という日本人の優しい性格のためできません。アメリカでは治療費用が払えないともうこれ以上の治療はできない、とはっきりと断られることがあります。命よりもお金が大事なのかと怒りたくなる話ですが、大事とかではなくて医療というサービスの対価が払えない人には提供しないという当たり前のことです。治療を打ち切ったりするのは冷酷で残酷だと思うのですが。

日本では病気の治療で自由診療を行うところはほとんどありません。まだ認可されていない薬や先進医療を受けたい場合などの特殊な場合に限られていて、普通の病気の治療はほぼ保険診療で行われています。それは国の努力と病院間で治療や検査の差が小さいという医療業界の努力の賜物です。

それに対して美容医療はほとんどが自由診療であり、国が治療費を負担することはないため、どうしても高額な治療費となってしまいます。しかしそれは美容医療がぼったくりなのではなく、病院という企業を経営する、資材や人件費、経営に関わる全てを国からの補助なしで患者様からの治療費のみで賄おうとするとそれだけの費用が必要となることを意味しています。つまり、美容医療がぼったくりなのではなく、保険診療が他国では不可能なほど異常に低価格なのです。

保険診療は低価格過ぎで美容医療は高額過ぎたのが、美容医療は市場の競争原理により低価格化してきましたので、不当に高い治療は減ってきています。それに対して保険診療はどうかというと一部は価格が上がっていますが基本的には低いままです。これは大変ありがたいことなのですが、見方を変えれば本来医療に必要な費用を支払っていないとも言えるわけで、低価格で医療を受けられるのはありがたいのですがあまりに経営を圧迫するようなシステムで健全な経営ができるのか、適切で質の高いサービスを提供できるのか、と考えると少し不安にもなります。

システムの歪みが外科医不足などのように表面化していますが、まだ無理矢理頑張っています。ただ、一度崩壊すると全体が一気に崩壊する危険性もあり、その危険信号が公立病院の赤字などに表れているのではないかと思います。じゃあ診療報酬を上げればいいのかというとコトはそう単純ではなく、限られた資金を効率よく使えばまだできることはあります。税金と似たような感じで、足りないから増やすのではなく、今ある税金を適切に無駄なく有効に使えば良いだけの話ですが、どうすれば良いのかは政治が絡む話なので一医師がどうこうできるものではなくなります。

「小医は病を治し、中医は人を治し、大医は国を治す」

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