鼻は顔の中ではちょっと特殊なパーツになります。顔の中心にあるために形や幅、高さなどごくわずかな差であっても顔全体の印象、バランスに大きく影響を及ぼします。ほんの少し鼻筋を整えるだけで顔全体がシャープな印象となり、目鼻立ちもくっきりとしたように感じます。ただ、他のパーツと異なる点は、鼻は目立ってはいけない存在なのです。目や口は大きくしたり境界をはっきりとさせることでパーツ自体を際立たせ、顔全体を引き締まった印象にしていきますが、鼻は少しでも大きくなったり高くなるポイントがずれると、とたんに鼻だけが目立つ存在となり、顔全体のバランスが崩れてしまいます。
鼻は顔の中心に位置しており常に人の視線を集めるパーツなのに目立ってはいけなくて、大きさ、形、高さを整えながらも存在感を出し過ぎてはダメという、非常にバランスが難しい部位で、高くしながらも主張し過ぎてはダメという無理難題を乗り越えて治療しなくてはなりません。しかも、顔の中心に縦にラインを作るため、わずかな左右のズレであってもわかってしまいますので、左右どちらにも偏ることなく治療することも極めて重要なポイントとなります。
ただし、アジア人の鼻で多い悩みは高さであり、治療方法としてはある程度決まっているのでそこであまり迷うことはありません。必要なのはやはり技術で、ヒアルロン酸注入を鼻に行う場合には形やバランスも大事なのですが、目や皮膚へと続く重要な血管を損傷したり塞栓させないことが最も重要な点です。ヒアルロン酸注入でまれに起こる重大な併発症は鼻や鼻周囲への注入で起こっています。今回は治療ポイント、塞栓を回避するための方法を含めてまとめていきます。
・鼻へのヒアルロン酸注入、適応
鼻を高くしたい人、鼻筋をくっきりと通したい人、鼻筋をストレートにしたい人が適応となります。全体的に鼻の高さを上げたい場合は、鼻背と呼ばれる鼻筋全体にヒアルロン酸を注入して文字通り鼻を高くします。注入量を調節することでより高さを出すこともでき、高さはあまりいらないけど鼻筋を細く、くっきりとしたい場合には少量にすることで可能となります。鼻筋をストレートにしたい場合は、凹んでいる部分にピンポイントで注入し、鼻筋のラインがまっすぐとなるように整えます。
・鼻へのヒアルロン酸注入治療法
まずは最も多い、鼻を高くしたい人。しっかりと鼻の高さを出したい場合は、鼻の先端からカニューレという特殊な針を使って全体的に高くしていきます。高くなることで皮膚も引っ張り上げられ、鼻周囲のたるみもとれてきます。鼻筋を少し通したいだけの場合やストレートに整えたい場合は、少量ずつピンポイントに注入していきます。
意外とよくあるのが、鼻骨の一部がやや出っ張っていて、その出っ張りを何とかしたいという方。骨を削るのは手術が必要になるし、そもそも削って低くしてしまうのは避けたい、そのような場合にはヒアルロン酸をその出っ張りの前後に注入し、鼻筋がストレートになるように整えます。
また、鼻の孔の間の壁を鼻中隔と呼びますが、その鼻中隔の根元と鼻柱にボリュームをもたせるように注入する方法もあります。鼻は年齢とともに低く、横に広がり、かつ唇との距離が長くなってきます。鼻柱に注入すると鼻の先端が前に少し持ち上げられ、やや細く、縦長の鼻になります。そして唇との距離が短くなり、それだけでも顔全体が引き締まった印象になります。この治療は説明だけで理解していただくのは難しくていつもこまるのですが、大手美容クリニックの理事長の言葉をお借りすると、ディズニーのプリンセスのような鼻をイメージしてもらうとわかりやすいと思います。彼女達の鼻を見ると、鼻柱という鼻孔の間の壁がしっかりと張り出しているのがわかります。ここが鼻の先端をしっかりと持ち上げる支えとなるのです。
・治療の流れ
通常のヒアルロン酸注入治療と同じ流れで、診察にて治療方針を決定したあと、当日または別日に施術します。施術前にメイクを落としていただき、準備が整ったらベッドに横になって鼻に注射していきます。カニューレを使用する場合は、麻酔薬で痛みを感じないようにして注入していきます。鼻の先端に小さい針孔ができますが、傷はすぐに塞がり、傷跡も数日で目立たなくなります。施術後はガーゼや絆創膏もなく、メイクもしてお帰りいただけます。麻酔が切れてからの痛みも特に強いものではなく、施術直後から通常の生活を送っていただけます。
・治療前後の比較
全体に高さを出した場合の症例です。使用したのはボリューマ1.0cc。カニューレで鼻の先端から挿入し、鼻筋が全体的に高くなっています。皮下出血や合併症はなく、特に問題なく経過。前から見ると鼻筋が高く、やや尖っているため当然鼻は細くなったように見えます。
治療直後の写真なのでやや赤く腫れて見えますし同時に施術したマイクロボトックスの痕も見えますね。
次に、出っ張りを目立たないようにしてストレートなラインにした症例。凸の部分を削ることはなく、凹んでいる部分を同じ高さにすることで相対的に出っ張りが無くなります。横から見るとストレートな鼻筋になっているのもわかります。
まずは治療前の写真です。赤矢印の出っ張りが気になるとのことで、そこを削るのではなく青矢印の部分に注入し、鼻筋をストレートなラインにそろえていきます。その結果が、
こちらです。化粧していたり写真の条件がちょっと異なりますが、鼻の形が見えればいいのでそこまで条件をそろえて撮影をしてはいません。やや鷲鼻のような形だったのがきれいな三角形になっているのがわかります。そして鼻筋の下、根元のところにも注入してあるので横から見た時の唇から鼻筋にかけてのラインが滑らかになってきれいになっているのもわかります。そうすると鼻の先端が前に出されて、より高い鼻となり、前から見た時には細く縦長の鼻に見えます。さらに上唇との距離も短くなり、それだけでも顔全体が引き締まって見えます。オペでいうとL字型のプロテアーゼを入れ、人中短縮術、鼻中隔延長術を施したような仕上がりに近いです。
3つ目の症例は多い悩みの一つで、鼻が低いだけでなく逆に反り返ったように全体的に凹んだ鼻筋を高く、ストレートにします。この場合は注入する部位ごとに注入量を微妙に変えて行うのがポイントになります。
赤いラインの鼻筋は反り返るようにして凹んでいます。ここに微量ずつ調節しながら注入すると、
こうなります。鼻筋がまっすぐになりました。ここでは下図にある赤い部分にヒアルロン酸が入っていますが、弓形のカーブをストレートにするために、注入する量は一定ではなく微量ずつ増減させています。非常に繊細な作業が求められるところで、ここをちょっとでも気を抜くと高さや左右のバランスが崩れてしまいがちです。
・注意すべきポイント、併発症
最も起こりやすいのはやはり皮下出血です。口周囲に比べると比較的出血の確率は低いですが、丁寧に施術しないと出血し青タンができてしまいます。めったに起こらない、正確に言うと起こしてはならないが最も重大な併発症は血管塞栓です。鼻周囲の血管は細くて数が少ないため、それを塞栓させると鼻の皮膚への血流が悪くなり、最悪の場合は皮膚が壊死します。また、鼻の横を通って眼に行く血管を塞栓させると視野障害が発生する可能性があります。もちろんそれらの併発症は確率としては低いものですが、油断していたり注入する技術が低いと起こってしまいます。
他に、注入後の結果が患者様の満足いくものでないこともあります。鼻が高すぎたり注入量を誤って横に広がってしまったり、ラインが整わずバランスが崩れることもあります。しかしこれらは技術的に問題ないドクターがしっかりと患者様からヒアリングして治療プランをたてれば回避できることです。
私はどの併発症もできればゼロにしたいと考えているほど併発症は嫌ですので、治療には細心の注意を払い、リスクを下げる非常に細かいテクニックも駆使しながらかなりこだわって治療しています。スタッフからは時々病気だと言われるほど…(^^;)。重大な併発症はカニューレでも発生しており、カニューレを使用しているから大丈夫と安易に考えてはいません。しかし、血管壁を突き破るような手荒な操作をせず、感触や針の先端位置をしっかりと捉えて微量ずつ丁寧に注入すればリスクを確実に下げられると考えています。そしてさらに重要なことは、併発症が発生した時の対処法を準備しておくこと。ヒアルロニダーゼ、アレルギー対策などですね。例え起こらなくても常に備えておくこと、備える気持ちを持つことが重要ですね。
当院では術後に止血剤、抗生剤、鎮痛剤を状況に応じて使用してもらい、できるだけ皮下出血しないように施術当日の飲酒、運動、入浴は控えてもらいます。翌日に皮下出血がなければほぼセーフですが、皮下出血があれば消えるまでの間コンシーラーで隠してもらっています。異常があれば緊急の連絡先に電話をしていただくように説明し、問題がなければ数日後、2週間後の段階で再診にて経過チェックします。
・ヒアルロン酸では難しい鼻の悩み
欧米人に多いのですが、鼻が高すぎるから低くしたいという方、このリクエストには残念ながらヒアルロン酸注入では応えることはできません。手術が必要になります。また、鼻の形を大きく変化させることも難しいです。極端なアップノーズや鷲鼻を変えたい場合、鼻を明らかに(数ミリ以上)高くしたい場合、小鼻を小さくしたい場合など、元の状態から別の形へ造り変えるのは手術が必要となってきます。ただ、高さや鼻筋、くっきりとした鼻、小さく見える鼻にするなど、ヒアルロン酸でも思った以上に変化させ、顔の印象を大きく変えることはできるので、悩んだら一度ご相談ください。
また長文になってしまいました。ただ、鼻や額、アゴなどのパーツ治療は年齢に関係なく興味ある治療で問い合わせも多いため、ちょっとまとめるつもりで書いてみました。さらに細かいことや、自分の場合だったらどのようにできるのか、などなど気になることはあとは診察で色々聞いて下さい。
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ラベールミラクリニック
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