基本的な考え方として、私は他院の治療や自分の専門外の治療を否定することはしないようにしています。他を否定することで自分の行う治療が優れているように聞こえてしまいますし、専門的に行っている先生がその治療については最もこだわりと知識や情報があるはずなので、他のドクターがそれをむやみに否定するとちょっと的が外れる場合もありますから。
私が徹底して気をつけていることは、自分の知っている情報は良いことでも悪いことでも公平に知らせるということ。一つの治療について言う時は、メリットだけでなくデメリットもちゃんと伝えるようにしていますし、聞かれた時に隠すようなこともしていません。リスクが少なく効果が高いものはありますが、治療には必ずリスクと副作用があり、100%安全で効果があるという治療は存在しません。
治療によってリスクも効果も異なり、もっと言えば患者様の状態や症状の程度によっても適した治療が異なってきます。最適な治療法を選択できるように、時には自分の専門外の治療や当院ではできない治療法を患者様に勧めることもあるほど、私は患者様に最適な治療というものを追求しています。
美容といっても医療は医学であり、治療には必ず仕組みと理論があります。自由診療は保険診療とは少し異なり、広告や集客などのビジネス的な側面も必要となるのは否定できませんが、ビジネスに寄ってしまって医療の本質から外れることはあってはならないと考えます。医療は学術であり、学術は研究によって技術や真理を追求するものであるから、そこには利益追求や有名になることよりも大事なことがあると信じています。
最近、他院の治療後の修正や相談がまた増えてきたように感じます。ヒアルロン酸注入後の修正や溶解注射希望は相変わらずという感じで、その中でも額への注入後、形が変ということで来られる方が増えています。ということは他院でも額への注入が多くなってきたのかもしれません。額の注入は簡単そうに見えて実は難しいポイントや注意すべきことがあり、一筋縄ではいかない奥深さが注入治療にはやはりあります。
額のヒアルロン酸注入は最終的な形をどのように決めるかがポイントです。女性は額がある程度広くて丸い方が一般的に可愛いとされていて、年齢とともに痩せて平らになったりゴツゴツしてくると確かにちょっと老けて見えますし男性的な雰囲気になってきます。それだけでなく、痩せはたるみとなるため、目の上が重たくなってきます。
つまり、女性の額を丸くすることは可愛くするだけでなくリフトアップしてたるみの改善にもなります。そこでヒアルロン酸を注入するのですが、眉から髪の生え際までが極端に膨らんでいるとまるでコブダイのようになって変な顔となってしまいます。コブダイはおでこがコブのように出っ張っている魚です。見たことがない方は一度調べてみてください。すぐわかると思います。
このような状態になった患者様が当院に来られた時は、ヒアルロニダーゼによる溶解治療の前にまずはモールディングしてヒアルロン酸を正しい位置に置き換えることで綺麗な状態へと整えます。モールディングというのは徒手によるマッサージで、結構な力を込めてヒアルロン酸を動かしていきます。そうすると患者様は一様に驚かれるのですが、こちらとしては当たり前の処置をしているだけなので、特別なことではないことを説明します。
驚かれる患者様に聞いてみると、注入されたクリニックやドクターに相談しても、もう溶かすしかないとかどうしようもできない、と言われるそうで、それを聞いて今度はこちらがびっくりします。ヒアルロン酸は硬いゼリーとは言ってもヒアルロン酸には変わりないので、正しい層に入っていれば時間が経っていても動かせます。というか、額へのヒアルロン酸注入は前頭筋の動きや圧迫される影響で多少は形を変えることがあるため、丁寧に注入しても最終的にはモールディングマッサージをして綺麗な形に整える必要があります。こんな当たり前のことを注入治療をしているドクターが知らないということに驚かされます。
ヒアルロニダーゼによる溶解治療は最終的な手段で、まずは注入されたヒアルロン酸を活かすことができないか、本当に溶かすしかないのかをよく考えます。どうしても活用できないものは溶かすしかありませんが、大抵の場合は治療が中途半端でバランスが悪く、必要な治療を加えてあげるとちゃんと綺麗になってきます。額の場合もせっかく費用をかけて注入したヒアルロン酸ですし、正しい位置に動かしてあげるだけで問題なく綺麗になるのに溶かすのはもったいないし無駄なリスクを増やすだけです。
かくして額の形が変とラベールに来られた患者様は60分2980円のマッサージを受けて無事に問題なく帰ってきたいただけます。60分2980円はジョークで、マッサージだけで修正できた場合には費用はかかりません。将来はわかりませんが、現在は診察は無料ですし、マッサージはけっこう力が必要で大変とはいえそれだけで改善するのであれば良し、としてます。マッサージも専門的な処置の一つですが、処置代を設定していないのは単に私の考えによるものです。
注入治療を行うのであれは従来のようにプチ整形と軽く考えるのではなく、ちゃんと理論や仕組み、リスクを理解し、どのような形が綺麗で良いのか、どうすれば患者様の希望を叶えられるのか、しっかりと勉強して欲しいものです。ていうかちゃんとやりましょうよ。微妙なラインではなく誰が見ても明らかにバランスが狂っているのに、注入するだけしておいて後は知らん、できないはあまりにも無責任じゃないかと思います。修正方法はあるのに。
ちょっと怒りついでにもう一つ、以前に問題があってあまり行われなくなったと思っていた成長因子入りのPRP治療、これも最近膨らみすぎて戻したいという患者様が増えてきました。PRP療法とは自分の血液を使って行う再生医療ですが(詳しくは調べてみてください。すぐに出てきます。)、単なるPRPに成長因子を加えて注射する治療が以前に流行っていました。しかしこれは細胞が増殖し過ぎる問題がわかり、数年前からはあまり行われなくなった印象でした。単なるPRPであれば問題となるほど膨らむことはないそうです。
しかし、最近またPRPに成長因子を添加した治療や、採取したPRPを濃縮して注射する治療が行われているようで、それによって膨らみ過ぎたという患者様を診る機会が増えています。多いのは額や目の下。確かにここはボリュームロスが目立つところなのでヒアルロン酸でもよく注入する場所なのですが、膨らみ過ぎると途端にバランスを崩して変な顔となってしまうのです。問題は膨らみ過ぎた場合に、ヒアルロン酸であれば前述のマッサージによって動かしたり、最終的には溶かすことができるのですが、PRP治療によってできた膨らみは自分の細胞が増殖した状態であり、小さくすることができないのです。
この問題はけっこう前から言われており、ケナコルト局注も含めて色々なドクターが色々な方法でトライしてきたのですが、残念ながら有効な方法は見つかっていません。相談に来られた患者様に、その膨らみはヒアルロン酸と違って溶かすこともできず、綺麗に小さくする方法はないことを説明すると皆ショックを受けられます。治療を受けるときはあまり深く考えず、説明もそれほどしっかりと聞かずに受けてしまう方も多いようですが、PRP治療でいったん膨らんでしまった部分はなかなか元には戻せません。
PRP治療を否定したい訳ではないので説明しておくと、PRP治療自体は非常に良い治療で、正しく丁寧に行えば自分の血小板血漿に含まれる成長因子成分によって線維芽細胞を刺激して肌のハリを出すことができ、自分の細胞なのでアレルギーのリスクは全くない上に効果も高い良い治療です。そして成長因子を添加して施術することも、悪い訳ではありません。加える成長因子を緻密にコントロールし、独自の技術でちょうど良い状態にできる治療を行えるドクターやクリニックはあることでしょう。
問題はその一部に、膨らみ過ぎて元に戻らなくなってしまっている状態の方がいるという事実です。しかもそういった患者様に治療を受けたクリニックを聞いて、ホームページや広告を見てみると、かなり広告集客に力を入れていそうだと感じます。どんな治療でもこだわりと愛情を持ってドクターが施術していればそうそう変なことは起こらないと思っていますが、それらの広告やホームページからはそこまでのこだわりや安全に対する配慮があまり感じられません。こだわりがないとは信じたくありませんが。
濃縮したPRPで本当にそこまで膨らむのかわかりませんし、成長因子を加えるときの注意なども本当はあるのかもしれません。逆に良い情報があったら教えて欲しいと思います。私はPRP治療を実際に患者様に施術することはありませんし今までも経験ありませんので、一般的な医師としての知識や情報はあるつもりですがより臨床に沿ったことや具体的な情報、最新のPRP治療については詳しくありません。
ただ、PRP治療によって膨らみ過ぎた額や頬を見ると、なんともできない悔しさはあります。ヒアルロン酸であれば溶かすことや修正することができるし、脂肪注入も溶解することはできます。また、非吸収性のフィラーであっても一応外科的に除去することもできます。でも増殖してしまった自分の細胞は簡単に減らせず、ケナコルトでは広範囲を綺麗に縮小させることが困難で凸凹が残ったり、一時的に縮んでも再度膨らんでくることもあるようです。その他の方法を試してみてもできなくて、もう皮膚ごと切り取って除去するしかないのでは、という状態の方もいます。
注入治療でせめてできることと言えば、他の部分のラインを整えたり足りない治療を加えることで、PRPによって膨らんだ部分が少しでも目立たないように顔全体のバランスを整えてあげること。膨らみを減らすことはできなくても、膨らみが膨らんで見えないようにできれば良いし、顔の他の部分の立体感を増すことで膨らみを少し小さく見せることもできます。
それにしてもやはり治療の効果は非常に大きくて、その分リスクも高いということを再認識させられます。同じ美容と言っても美容医療とエステなどの美容ビジネスとは全く異なり、美容医療はやはり医学であってその効果は比べ物にならず、効果と副作用、リスクとのバランスを保って治療を行うことが大切です。
美容医療には様々な治療があって、それぞれに専門家がいてこだわりを持って治療に臨んでいます。治療のエビデンスもしっかりしたものが増え、いい加減な治療は減っています。治療には必ずリスクや副作用があり、かつ美容医療は最も表面的な治療で、患者様の考える美と必ずしも一致しないことがあるため、全ての患者様に100%満足してもらうのは難しいのですが、そんな状態からは明らかに外れる治療をしていてその後のフォローは無し、方法はあるのに修正はできない、と言い放つのはさすがにやり過ぎではないかと思ってしまいます。自分の治療を見直すべきです。
ちなみに全ての患者様を100%満足させることは難しいと言いましたが、それでも100%を目指すのがプロです。
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