ヒアルロン酸注入治療は自由度が高いだけでなく治療効果が非常に高くなっています。それなのにまだ治療そのものがドクターにも一般の患者様にもあまり知られていません。これによって起こるのは、「患者様の希望する治療に沿うべきか正しい治療にこだわるべきか」論争。
他の治療でももちろん起こり得る問題ですが、ヒアルロン酸注入の場合はちょっと多い印象。
ドクターA「患者様は法令線に注入して欲しいと来るが私は正しい治療をお勧めします。」
ドクターB「患者様が希望する治療をしてあげたら良い。」
ドクターC「正しい治療があるのはわかるが法令線への注入でも薄くはなるから、別にそれで良い。」
ドクターD「患者様の予算があるのだからそれに合わせて治療をするのが正しい。」
ドクターE「ヒアルロン酸は少ない量で治療してあげるのが良いし、その方がカッコ良い。」
などなど他にも色々な意見、考えがあると思います。
私の考えは常に同じ。患者様の希望を聞き、それに対して医学的に必要かつ正しい治療を専門家として提案する。その範囲内で患者様の考える治療程度や予算に応じて治療を決定し、それを再度、ナチュラルにバランスよく整うように再配置したり治療の組み合わせを微調整する。この流れは誰に対しても変わりません。
私は医師であり専門家であり、常に注入治療で何ができるのか、どこまでできるのかを追求しています。治療内容を最終的に決定する場合において予算は非常に重要な要素となります。しかし、患者様の希望に対して必要な治療やできることを提案する際には予算はひとまず置いておき、プロとしてできることを一旦提案します。
この流れは自由診療であっても保険診療であっても、同じ医療である限り変わらないと考えています。病気の治療の場合、まずは症状に応じて病気が治り得る治療を提案します。その時に予算で治療上限を決める人はいません。例えばインフルエンザの薬を処方する時に、本当は5日間飲むのが正しい治療だけどちょっと高いから3日間にしておこうか、とか、2〜3日飲めばとりあえずはちょっと良くなるからまずそれだけで、と言う医者はいません。
ヒアル1〜2本をとりあえず法令線に入れる治療を否定しているわけではありません。プロとして一旦は全体の治療、正しい治療の必要性を提示した上で、予算を考えてその選択をするのは悪くはないと考えてます。その選択をする時の患者様は、法令線だけに注入する治療のメリットとデメリットを理解されているはずなので、そのデメリットを理解した上でメリットを優先して選択するのはアリです。(あまりにバランスを崩す恐れがある時はさすがにちょっと止めますが)
問題はドクターからデメリットの説明や本当に必要な治療、正しい治療の流れなどの説明がされていない時。患者様も本当は正しい治療、必要な治療を知りたい、知った上で自分の考えや希望する治療を考えたい、と思われている方は多い。その時にアドバイスをくれるプロ、であるはずのドクターからの説明が足りないと不安に感じたり、治療してもなんだか満足し切れないことにつながります。
とはいえ…
説明も提案もすっ飛ばして患者様の希望する治療だけをちゃっちゃっとする方が効率良いのはわかります。患者様が希望する治療をしているから基本的に不満は出ないし説明も最小限にすることで一人にかける時間は減って効率良くなる、つまり売上は上がるし。
これ、保険診療でもよくある光景。風邪の患者さんに抗生剤を処方するのは意味がないし医学的にも正しくはないから、「薬は最小限にして家で水分摂って横になって体力回復させてください」と丁寧に説明する、そうすると患者さんから感謝されることは意外と少なくて、「そこの医者はせっかくかかったのに薬も出してくれん。それに比べるとのあっちのドクターは薬をいっぱい出してくれる良い医者だ。」という会話はけっこう身近で聞かれる話。
そうすると、余計な薬を摂取しなくていいように医学的に正しい治療を一生懸命伝えても患者さんは満足せず、クリニックは儲からず。でも面倒な話をしないでとりあえず薬を出すと、患者さんは喜んでクリニックの売上も上がる。ただし治療は医学的に正しいことはなく、本当の説明をしないのはある意味患者さんを騙しているような気にもなる。でも患者さんは喜ぶし誰も不幸にならないからと納得する。
これ、どちらが患者さんにとって良い治療、患者さんのことを考えた治療と言えるでしょうか。難しいと思います。上記の例はちょっと極端に考えてみた場合であり、最近は風邪に抗生剤は必要ないとわかっている患者さんも多いでしょうし。後者のドクターも決して利益ばかりを考えているのではなく、抗生剤を処方する意味を考えていることもあるだろうし、一人に時間をかけ過ぎると待ち時間が何時間にもなってしまうと他の患者さんのことを考えている場合もあるかもしれません。
こういう問題の答はたいてい難しい。ケースバイケースであったりクリニックの状況によっても異なり、さらにはドクターの考え方によっても選択は異なる。一つに決めることはできないことが多い。大事なのは治療を提供する専門家であるドクターがどのように考えるか。その考えに基づいてこだわりを持って選択しているのであれば、その考えに魅力を感じて行く患者様の満足度はどちらであっても高いのでは、と思います。
患者様の求めるものとドクターのこだわりに大きなズレがある場合、お互いに不満足な結果となってしまうことがあるように思います。ということは、ドクターの考えやこだわりを日頃から発信しておくことが大事になるかも。そうすると需要と供給が一致しやすく、問題となりにくいのでは。
ただ、患者様の考えていることや希望が正しい治療から大きく外れている時はせめて最低限の説明はしてあげるべきと思います。
夏の寿司屋に来た客がもしも、「旬の美味しいカニの風味を最高に味わいたいからカニのアヒージョを出してくれ。」と言った場合には、はいはいわかりましたと冷凍のカニをアヒージョにして出すのではなく、カニの旬は冬であり夏は時期外れであること、さらにカニの繊細な風味を味わうのであればアヒージョではない方が良いことくらいはお客さんに上手に伝えてもいいんでないかなと思います。
最後に一つエピソードを。
とある兄弟は、ストリートファイターⅡという対戦格闘ゲームが好きでかなり強かった。ゲームセンターで100人抜きをしたり瞬殺するコンボを編み出したりと。で、ある時共通の友人が遊びに来て、その友人もゲームが得意で強い、負けたことない、と言う。実際にゲームで対戦してみると、兄弟からするとその友人は弱かった。すぐわかります。
そこで、兄は友人のプライドを保ってあげるためにわざと負ける。弟からみるとかなりわざとらしいくらい負けてあげる。ところが弟の場合、本当の実力で圧倒的に倒してあげて、井の中の蛙であることを友人に気づかせてあげる。別に強さをアピールしたい訳ではなく、それくらいで強いと思っているといつかどこかで恥をかくだろうし、今気づく方がその友人のためだという、ある意味優しさのつもり。
これ、どっちが優しいと言えるんでしょう?
一見、兄の方が優しいと思うでしょうが、もしその友人が別のところで兄が強いことを知って自分が実は弱いことを知ったら、あの時に負けたのは自分のプライドを保ってくれるためだったのかと感謝するかもしれないし、わざと負けてバカにしてんのかと怒るかもしれない。
弟に対しては、その場では負けて悔しいと思っても、それがきっかけで自分のことを見直し、かえってあの時に気づかせてくれてありがとうと感謝するかもしれない。
結局、どちらが正解でもなく、どちらであっても上手くいくこともあるだろうしトラブルになることもあるだろうし。弟も、ただ倒すだけでなく上手に伝えてあげれば友人も不快に思うことなく自分の実力に気づくことができるかもしれない。たまたま二つの考えを示しましたが、選択肢は二つではなくもっとたくさんあります。
さて、このブログを見てくださったドクターは、どんな考えでどのような選択をするのか。こだわって考えて選んだ選択はどれであっても必ずしも間違ってはいないと思います。外していけないのは、患者様のことを考えて診療しているかどうか。さらには治療の安全性にどれだけ重きをおいているかどうか。治療の安全性は売上や効率よりも常に優先されるべきです。
ちなみに兄弟のエピソードは私と兄の話。行動は真逆でも友人に対する思いやりは同じようにありますよ(笑)
もう一つちなみに、ラベールではヒアルロン酸の量は少ないほどカッコ良いという考えはありません。もちろん最小量で最大限の効果を出せるようには常に考えます。20cc必要なボリュームロスに対して10ccでもできるだけ整えられるように工夫します。しかし、10ccはどう頑張っても物理的に20ccには届きません。ヒアルロン酸注入治療は魔法ではありません。必要なのは物理の法則と視覚効果も含めた美顔学です。
ヒアルロン酸注入において大事なのは、『必要な場所に必要な量』です。
この記事へのコメントはありません。