今日は真面目な話半分で、残りは物理オタク向けの話です。
私は高校生の頃、物理学にハマってしまったオタクでした。独自でアインシュタインの特殊相対性理論を学び、光の特性を知り、質量を持った物質では光の速度に到達できないことなどを計算式などを含めて学んでいました。テストや授業には全く関係ないのに。どこのクラスにもそんな物理オタクは一人くらいいたと思います。ニュートンという雑誌を購読し、速度計算は公式をたくさん覚えるのではなくて微積から導き出す、というような。
その中でも私は筋金入りで、物理は大好きで東大だろうが京大だろうがどんな問題でも常に100点を取るくらい極めていた反面、大嫌いな化学は高校3年間の間全く手付かずでテストもセンターも常に30点以下。両極端でした。(最終的には化学も勉強しましたが。)
物理オタクになった結果、この世には絶対的なものがないことを10代で理解した私は(笑)、色々な物事を相対的に考える視点を持つようになりました。この考えは思考を柔軟にし、幅広い視点で物事を捉え、受け入れる、というようなことができるきっかけになったと思います。
前置きが長くなりました。言いたいことはつまり、ヒアルロン酸注入治療も相対性理論で考えることが大事ということです(笑)
ここからちょっと真面目な話をすると、顔の治療におけるTFT(total facial treatment)とは、一つの症状にだけ注目するのではなく顔全体の症状を治療しましょうというのが一般的な定義ですが、私の考えではそこからもっと踏み込んで、顔のバランスを整えることが最重要かつTFTの本質としています。
顔のパーツや形はそれぞれお互いに関連し合っており、そのバランスを整えることこそがナチュラルに美しく、若くすることができます。バランスをとことん整えること、このバランス治療こそがTFTの本質です。
バランスと一口に言っても簡単ではありません。美の基準とも言われるラインやカーブ、比率も結局は大多数の人が美しいと感じるバランスであり、それをそろえるだけでも簡単な作業ではありません。さらには顔の縦と横のバランスに始まり額、鼻、リップ、顎先、頬の立体感のバランス、各パーツの大きさや形のバランス、光の当たる部分と影のバランス、平面と局面のバランス、まだまだたくさんありますがそれらを複数同時に整えていきます。
非常に複雑な作業です。何か一つの治療をするとそれに関連したポイントや比率のバランスが変化しますからそれを整えないと違和感が出ます。鼻やリップなど一つのパーツを治療してもそれに合うバランスに顔をしておかないと、パーツだけ見れば綺麗なのに顔全体はなんとなく違和感がある状態になってしまいます。
逆にバランスをそろえることで目的の部位やパーツを直接触らなくても目立たなくしたり綺麗にすることもできます。例えばリップをふっくらとさせたいからまずはそれに見合う顔にするためにリップ以外の治療から始める、頬の膨らみが目立って嫌な場合にフェイスラインや他の部位に注入することで返って頬の大きさを小さく見せることができる、などなど。
鼻やリップなど一つで顔の印象を大きく変化させることができるパーツの形を変化させる場合、治療後の形に見合った土台にしておかなければそのパーツだけが浮いてしまいます。鼻を高くシャープにするのであれば顔全体をある程度リフトアップしたりシャープな輪郭にしておくわけです。そうすると鼻に注入しても違和感は出ません。
このテクニックを使うと今までではできなかった治療ができます。他のクリニックではもうこれ以上治療できない、注入するところがないと言われた患者様であっても治療する余地があり、不思議と綺麗に見せることができたりもします。気になる部分を改善したいう場合にその部位を直接治療せずに改善させる、これって受けてみると結構不思議な現象だし面白いことかと思いますが、基本的にはそうできる理論と仕組みがあり、それが相対性理論なのです。
相対性理論とは何か一つを基準にして考えることであり、絶対的な基準はありません。美容においてもし絶対的な美人顔があったとしたら、治療することで皆同じ顔になってしまいます。韓国で整形手術を受けると綺麗なんだけど皆同じ顔になっちゃう、という声をよく聞きますが、それこそはまさに絶対この顔が良いとする考えがベースにあるからかもしれません。
注入治療は顔を作り変える治療ではなく、あくまでその人の持つ美を表面に引き出してあげること、元々の若い顔に近付けることが目的なので、絶対的な美はそもそもありませんし当てはめるべきではないと考えます。注入治療こそ相対性理論が大事。
顔の中で変えられない何かを基準とした場合に他の部分の形や大きさ、長さなどの比率が決まります。例えば顔を面長だと感じている人は、縦の長さを基準に取るとバランスが揃う横の長さが決まります。その範囲内であれば顔の横幅を広げても変に見えるどころかバランスが整って返って小顔に見えてきます。広げると言っても1mmもないような世界です。物理的に大きくするのではなく、そう見えるようなライン取り、面に整えていきます。重要なのは光と影のコントロール、人の目の視覚効果や脳の癖を利用すること。
基準は一つではありません。2〜3個でもありません。鼻を基準にするとその大きさによってリップ、目の形が決まり、顔の輪郭が決まり、頬の高さや額、顎の立体感が決まりますが、そのどれを治療するか、どれから治療するかによってそのバランスが無限に変わります。顎の長さは全く変えたくないとなるとそれに合う鼻の高さに留めておくべきであり、そうすると頬の高さや額の丸みは必然的に狙う形が変わります。さらにその中でますば額から治療したいとなると、優先的に治療した額だけが丸く突出して目立たないようにその治療程度や関連する他の部位の治療をある程度しておく、などなど、非常に複雑すぎて簡単には説明できません。
顔の中で一つ変化させるとそこに関連する部位全てに影響が及ぶと考えてください。そしてざっくりとイメージで言うと、ある部位に関連した部位やライン、面、立体感は最低でも10〜20ポイントはあります。左右差も含めますから。そうすると一つのポイントを治療すると関連するポイントが10ポイントあり、それぞれのポイントを治療するとさらにX10ポイント、つまり100ポイント、と言うように指数関数的に関連ポイントが広がっていきます。ですからそれを追いかけてもバランスが整わないので、二次方程式の解を出すようにバチッと答えを出してそれを当てはめてあげます。
どうですか?こう聞くと途方もなく大変で終わりのない作業に見えますが、訓練するとこれができるようになってきます。そのために必要なのは注入治療の概念をイチから理解することです。従来のただ溝に注入するだけではもはや追いつきません。
TFTとはバランス治療であり、バランスとは相対性理論。この概念で治療すると、患者様の顔の特徴を変えることなく治療することが可能です。つまりナチュラルな綺麗さ、若さを引き出してあげることができます。ただ単にドクターの考える綺麗な形を押し付けたりパーツや部位だけを綺麗にすることをしていたら皆同じような顔になってしまいますし、顔変わったねというようないかにも整形しましたという印象になってしまうこともあります。
一見して綺麗なのに整形顔と言われるような顔は、顔の中のバランスが微妙に崩れていることが多いです。このバランスの崩れは普通の人には読み取れません。でも人の目というのは鋭くて、どこがとか何が悪いのかはわからなくても、感覚的に何かおかしいと感じ取ってしまうのです。それが違和感の正体です。
治療するドクターは専門家として、患者様と同じようになんとなくで見てはいけません。なぜ変に感じるのか、どこがどう作用して、何が悪さして違和感につながっているのかを客観的かつ物理的、立体的、心理的かつ脳科学的、動的かつ静的、そして相対的に見抜いて、見極めて治療しなくてはなりません。全てを同時に考えながらバランスを整えていくのです。
バランスを整える治療ができるようになるとスーパーナチュラルな治療が可能となります。「スーパーナチュラル」というのは海外から来る患者様に私がよく言う造語です。すみません(笑)
そして、究極にバランスを整えた治療ができると、逆にそこからバランスを崩した治療も可能となります。人によってはそあえてバランスを変えた状態を望むこともあります。私は面長が良い、いや丸顔が良い。顎はもっと尖っている方が好み、頬はコケていてもこめかみは丸くしたい、などといったように。
最終的には好みの顔に寄せていくので患者様の希望する形、印象にしていきます。それがバランスの整った顔から多少違っていても良いんです。患者様の望む形こそが正解であり、バランスを整えて治療だけが正解ではありません。バランスを整えた顔はあくまで治療の目安であり、教科書、ガイドブックのようなものです。世の中教科書に書いてあることだけが正解ではありませんが、一つの指標にはなります。
普段からパーツ治療だけをしていたり概念を持たずに治療をしていると、いざバランスを整えたスーパーナチュラルな治療をするとなっても残念ながら難しいでしょう。逆にとことんバランスを整える治療を追求しているドクターが、あえてそのバランスを崩した治療をするのは簡単です。治療したことがわからないけどなぜか顔全体の印象が良くなっている、そんなナチュラルな治療でできるようになれば、いざパーツ治療をするとなっても違和感のない治療が可能です。
インスタで鼻やリップだけをアップで見ると綺麗だけど顔全体を見るとなんとなくスッキリしない、これはバランスの乱れによる違和感が原因であり、それに対して必要な治療は何かを大きく変えたり形を変えるのではなく、顔の中での「リバランス」です。そしてそれをするために必要なのが相対性理論です。
今日はちょっとマニアックな内容ですみません。ドクター向けの内容も含んでいます。同じような概念で治療をされている先生はふむふむ、と共感されるかも。相対性理論、けっこう面白いですよ。私が勉強したのはほんの一部であり、その後の一般相対性理論は難しくて断念し、大学に入ってからの量子力学はもう頭がフリーズしてついていけませんでしたが(笑)、相対性理論のエッセンスだけでも取り入れると物事の捉え方がちょっと変わると思います。
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