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たれ目院長ブログ 〜そういえば、なぜ医師になろうとしたのか。医師を目指したきっかけはなんだっけ。〜
姪っ子からこんな質問が来ました。小学校の宿題のようで、身近な人にインタビューしてくるというものです。
この質問、最初は先生受けが良いように答えてあげようかと思いましたが、色々考えているうちに案外真剣になってしまいました。真剣に考えた結果答えたことがこちら。
『仕事内容』
病気の治療をする医師です。病気の人に薬を出したり手術をして人を助けます。
『働くことの良さ、大切さ』
仕事というのは、頑張れば頑張るほど人のためになり、感謝されます。感謝されると嬉しくなることが働くことの良さです。働く時には人のためになることをすることが大切です。
『なんでその仕事につこうと思ったか』
私が子供の頃、父親が病院で手術を受けました。その時に人の命を助ける医師をかっこ良いな、私も同じように人の命を助けたいなと思って医師になりたいと思いました。
『やりがい』
医師という仕事は大変やりがいがあります。頑張れば人のためになり、感謝されます。自分が頑張ることで人が喜ぶ姿を見ると嬉しいと感じます。生きている間にこの嬉しいことをたくさん集めることがやりがいになると思います。
回答を考えているうちに自分がなぜ医師を目指したのか、今の自分となるまでの根源的な部分について改めて確認させられ、当時の若かりし頃のことを思い出していました。
私の父が病気になったこともあり、私と兄弟達は結構早い時期から人間の病気というものに向き合い、病院と医療関係者との関わりは長く深いものとなっていきました。父の病気は遺伝的なものでもなく不摂生によるものでもなく、誰にでも突発的に発生し得る病気で、言い換えれば運悪くなってしまう病気の一つでした。
時には小学校から帰ってすぐ電車に乗って病院まで行き、夜に母と一緒に帰る、そんな生活の繰り返しだったことも。そうした中で、誰に言われるでもなくごく自然発生的に医者になろう、と漠然とした考えが徐々に頭の中で膨らんでいきました。自分も医者になって病気の人を治したり治療をしたいと。なれるかどうかという問題は別として、まだ幼い頭の中には父を治療する医師の姿に自分を重ねていました。
苦労したのは大学受験ですね。なろうとは思ったものの医学部に必要な偏差値は高く、元々天才でも勉強ができる方でもなかった私は苦労して勉強しました。よく人から、医者だから頭良いんでしょ、とありがたいことを仰ってもらえるのですが、とんでもありません。ごく普通の脳ミソだからこそ努力し、その結果、普通の人間でも頑張ればできるということを受験を通して学びました。と同時に本当の天才がいることも知りました。
天才と呼ばれる人達は確かに存在し、我々普通の人とは明らかに何かが異なることを感じさせてくれます。私が3回読んでも覚えきれない本を、彼らは信じられないスピードで読み、1回で完璧に頭に入ってしまうのです。ほとんどのことは努力によって達成できることを知りましたが、逆に本当の意味で天才という者が存在するのだということも知りました。
話がそれましたが、なんだかんだで医学部に入り、その後研修を通して一人前の医師を目指していくのですが、大人になるにつれて強く意識させられたのはやりがいの部分です。
なぜ人は働くのか?
お金を稼ぐため。
当たり前です。今の社会システムでは生きていくためにはお金が必要であり、生活費を稼ぐために働く、これは当たり前過ぎる事実です。が、お金は働く目的のあくまで一側面であって目的の全てではないと考えています。
研修医時代、厳しい上司に担当患者の治療を一人でやってみろと指示され、ほとんど病院に寝泊まりしてつきっきりで状態変化に合わせて慌てて処置をする、めちゃくちゃ大変でプレッシャーもありましたが、ほとんどの人がもうダメかと諦めるような状態だった患者が回復した時には他では得られない無上の達成感を感じました。
また、その後の麻酔科医時代では、仕事の時間外にも関わらず脳外科医から緊急手術をしたいと麻酔を依頼され、心臓が止まりそうな瀕死の状態の患者様を手術が終わるまでエピネフリンでギリギリの状態を保ちながら維持したら、なんとその方は回復して2週間後には病棟を歩き回っていたとのこと。脳外科のドクターから聞きました。正直、ギリギリの生命コントロールでしたが状態を考えると回復の見込みは非常に薄いかもと感じていました。執刀医である脳外科医も似たような心境だったと思いますが二人とも諦めが悪い性格で、最後の最後まで粘って治療したところ、社会復帰できるまで回復。
後日、執刀医からあの患者さん回復したよ、と聞いた時には涙が溢れるとともにあの何物にも変えがたい達成感を感じました。患者様の回復を喜ぶとともにあの時頑張ってよかった、諦めなくてよかったという気持ちが心の奥底から溢れ出てきました。患者様も必死でしたが治療する側も必死でした。エピネフリンを持続投与し輸血を最大の速度で入れても血圧は40台で、一瞬でも気を抜けばそこで患者様の命は終わる、そんなギリギリの状況からの回復。必死で頑張ってよかった、医師になってよかったと改めて思う瞬間でした。
その患者様とはその後お会いしていません。それどころか病院に搬送されてからも手術中も全く意識がないため、脳外科医ドクター以外に必死になって治療した麻酔科医の存在は全く知らないことでしょう。患者様から感謝されることもお礼を言われることもない。それでも私には密かな達成感とやりがいがあり、それを感じるだけで幸せな気分になりました。
医師としてのやりがいは必ずしも命を救う場面だけでなく、風邪薬を処方する、軟膏を1本処方する、その瞬間にも患者様のプラスになりたいという気持ちは同じであり、ありがとうの一言でどんなに疲れていても元気が出てくるように、常にやりがいを感じることができます。今私が専門的に行っている美容医療も命を救うような治療ではありませんが、コンプレックスや悩みを取り除き、心のつっかえを無くすことで前向きに生きられるようになった患者様を見ると命を救った時のようなやりがいを感じます。専門は変わっても医師としての根っこは同じつもりでいます。
かわいい姪っ子には仕事の「やりがい」をぜひ知って欲しくて上記のように答えましたが、これは模範回答のつもりではなく、過去を振り返って考えた本当の気持ちでもあります。医師という職業に限らず、仕事にはやりがいが大事で、それはお客様からの感謝であったり自分の仕事に対する他者からのなんらかの反応だと思います。私の好きな缶コーヒーのテレビCM、「世界は誰かの仕事でできている」というのがありますが本当その通りと思います。例え誰にも見られていなくても、直接感謝の言葉を言われなくても、自分の仕事が社会の一部のなって誰かの役に立っていると思うだけでもやりがいを感じるのではないでしょうか。
昨今、お金を稼ぐことが正義、お金をたくさん持っていることがかっこいい、勝ち組、というような風潮があります。お金を稼ぐことはもちろん大事ですが、仕事をお金を稼ぐためだけにして欲しくないなという私の希望があります。どんな仕事にもやりがい、良さがあり、姪っ子には稼ぐこと以上に仕事に楽しみ、やりがいを見出してほしいなと思います。
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