エビデンスとは証拠や裏付けとなるデータのことです。医療において、研究などによって得られたデータが論文や学会で発表されたりして共有され、実際の治療に役立てていくわけです。
治療と言うのは人の体にリスクのある行為を行うわけですから、個人の思いつきで進めてはいけません。治療は医学に基づいたものであり、医学は研究などのエビデンスが重要です。そこでしばしばその治療のエビデンスはどうか、などと問われるわけです。
ただし、エビデンスの扱いと言うのは、一般の方が思っている以上に複雑で難しいものです。エビデンスにおいて重要なものの一つは、そのデータが得られたときの母数、症例数、すなわちNです。例えばヒアルロン酸注入後に100人に1人に強い腫れが出るとします。この場合、ドクターから見れば100人に1人と言う確率は、ある程度低いものと見ることができます。そして、腫れなかった99人の患者さんにとっても同じように低いものだと受け取ることができます。
しかし、腫れが出てしまった患者様本人にとってみれば注入後に腫れが出る確率は100%と感じます。治療を受けた100人を母数のNとすると、確率としては100分の1となって低いものとなりますが、腫れを体験した患者様が自分自身の体験を母数のNとしてし考えてしまうと、1分の1で100%と言う数字になってしまいます。
ここに考え方のズレが生じます。ある治療はすごくいいよと言う意見もあれば、いやいや全然だめだよって言う意見があるのは、それぞれその意見の証拠つまりエビデンスとなる症例数の違いを反映していルコとがあります。医療のプロである医師はある程度、正しいエビデンスに触れているはずです。しかし、そうでない一般の患者様にとってみれば知っていること、体験した事に意見が偏ってしまう傾向はどうしても否めません。
また、エビデンスによる医療を複雑にしている原因のまた一つに、データをよく見せる、ということがあります。研究や論文のデータを、改ざんとまでは言わなくても、できるだけよく見せるように編集する、都合の悪いデータは見せないようにするということは実はよくあります。医者や学者の全てが聖人君子と言うわけにはいきません。
ですから、医療のプロである医師は、1つのエビデンスをもとに1つの治療を強力に進めると言う事はありません。とある論文による一つのデータがあってもそれを盲信する事はなく、その反対論文を調べたり、もっと信頼できるデータが数多く集まるのを待って、様子を見て治療に組み込んだりします。賢明なドクターほどそうすることでしょう。一般の方が、テレビでこんな良い治療があるっていうことを見たのになぜクリニックでやらないんだろう、と思っても、そこにはプロとしての慎重な考えがあるわけです。
結局、データや論文と言うのも確率論です。1つのエビデンスに飛びついて治療を行うのは大きなリスクを伴います。例えば、良いデータの発表者が、その裏にある都合の悪いことを知っていながらそれを隠して発表したとします。しかし、都合悪いことがずっと隠されたままということはなく、そのデータに基づいた治療が広まっていくうちに、だんだんと都合の悪いことが見えてきたりすることもあります。初めは良い意見が多くあったのに対し、時間が経ってくるとだんだんと良くない意見が増えてくると、最終的にその治療は良い面もあるけれども、悪い面もある、効果は高いけれども、副作用も強いから治療に適してないという結論が出てくることもあります。
人間、スパッと言い切られた方がなんとなく信じてしまう傾向があります。しかし、医療において、特に美容医療においては、SNSで聞こえよくスパッと言い切る意見に流されることなく、慎重にかつ思慮深い意見や考えを発信しているドクターや医療のプロを見つけましょう。(と言っても誰がそれに該当するドクターかを見つけることが難しいのですが…。結局モヤモヤした結論ですみません…。)
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