副作用というのは薬では主作用と比較してよく用いられる言葉で、病気を改善するための目的(主作用)に対してそれ以外の起こりやすい症状(副作用)のバランスをとって薬は作られています。多くの場合、副作用に対して主作用が上回るように薬は作られていますが、副作用の存在しない薬というのは存在しません。薬そのものによる副作用と、手術や処置に伴って起きうる減少(併発症)、または処置のミスによる症状とは少し分けて考える必要があります。たるみ治療に使うヒアルロン酸は身体になじみやすくて良い製剤ですが、副作用が全くないわけではありません。
ヒアルロン酸注入は手軽に受けられる美容医療ですが、明らかにバランスがおかしいなどのようなミスは除き、処置に伴って発生する併発症としてはアレルギー、腫脹、皮下出血、動脈塞栓、感染、等があります。そのうちで最も起こりやすいのは皮下出血で、皮膚に針を刺す以上どれだけ気を付けていても100%皮下出血起こさないようにするのは難しいです。もちろん目に見える血管は避け、皮膚の奥の血管の配置を頭に入れ、特注の針を使用するなどして極力皮下出血のリスクを抑えることは重要です。現実的には、当院で処置後に皮下出血が発生する割合は1割以下です。
一番怖いのは動脈塞栓で、血管の中でヒアルロン酸が詰まることにより血流が悪くなり、皮膚が壊死したり視野の一部が欠損するような失明が発生することがあります。これは針先が血管内に迷入してしまうことで発生するので、技術的に回避する必要があります。皮下出血はある程度は発生するものだと考える方が良いですが、動脈塞栓はできる限り発生しないようにあらゆる努力をしなければなりません。ヒアルロン酸注入を行うドクターが最も気を使うところで、色々なテクニックも工夫しながら処置を行います。ただ、この併発症は注入直後から発生するので数か月後など時間が経ってから起こることはなく、そういえば先月に入れたヒアルロン酸は大丈夫かしら?と心配することはありません。
他の副作用のうちで、アレルギーはこれまたゼロとは言いませんがコラーゲンに比べると非常に少ないためそこまで心配する必要はありません。ただし、使用するヒアルロン酸製剤によって不純物や含有物に差があるので、注入するヒアルロン酸製剤には最低限の気を使うと良いでしょう。感染に関しては注入時に清潔な操作をすることがポイントとなります。人間には免疫システムがあるのでよほど乱暴な処置をしない限りすぐに感染することはありませんが、清潔な操作の程度は見ているとドクターによってこだわり方が異なります。私は外科、麻酔科の経歴が長く、消毒にはかなり気を使う方だと思います。おそらく他の先生が見たら、そこまでしなくても…と思うくらい。
ほとんどの副作用は注入直後から数日以内に起こるのでそれ以上の時間が経っていれば心配はいりませんが、時間が経ってからも発生するものがあります。身体が疲労困憊であったりステロイドなどの免疫抑制治療をしていると身体の中の細菌が感染して腫れることがまれにあります。風邪などでもちょっと腫れるような感じがある時もありますが、これは細胞の水分バランスが不調になってヒアルロン酸が体液を吸って膨張している状態と考えられ、体調が回復すると治まります。それとは違って細菌によって感染すると、ヒアルロン酸がやや硬い腫脹として触れることがあります。これは抗生剤治療で感染が落ち着くと治ってきます。何か腫れてるなあと感じたら早めに対処することが重要です。
感染は実は私自身に発生したこともあり、症状も経過もよくわかっています。発生したのもたしかに寝不足と緊張続きで疲労困憊の時でした。下にその時の写真がありますが、左目の下が少し腫れているのがわかります。この時は注入したヒアルロン酸がやや硬い腫れとして触れましたが、抗生剤を飲んで4日後にはすっかり腫れもひいて治りました。
以上、医療者としては直視しなければいけないけれどもあまり話したくはないヒアルロン酸注入の副作用でしたが、副作用の中には起こしてはいけないものと、どれだけ注意していても起こることはあるものに分けられます。大切なのはあらゆる努力をして避けるべきものは避けること、そして時々起こり得ることに対しては対処法を準備して治療に臨むことです。アレルギーには抗アレルギー治療、感染には抗生剤治療、そして丁寧な施術を心がけること。
アレルギーも感染も腫脹も、最終的にはヒアルロニダーゼで溶解治療をすればヒアルロン酸注入自体をなかったことにもできるので、アンチエイジング治療にヒアルロン酸を選ぶことがそもそもリスクの低い選択とも言えると思います。今の美容医療のトレンドは安全であること、いくら効果があったとしてもリスクが高いものは意味がないと考えます。ヒアルロン酸は最終的には溶かせるという他の製材にはない特徴があり、例え使わなくてもその手段があるという事実が非常に重要であると考えます。
また差し入れをいただきました。いつもありがとうございます(^^)
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