先日、子どもたちと一緒に、25年以上ぶりにスケートに行ってきました。子どもたちは初めてのスケートだったので、当然のようにすぐ転んでしまいましたが、何度も立ち上がってはまた転ぶ、の繰り返し。それでも諦めずに挑戦し続けた結果、1時間後には少し滑れるようになっていました。
一方、私は子どもの頃は普通に滑れていたはずなのに、久しぶりすぎて「転びたくない」「怪我をしたくない」という気持ちが先に立ち、すっかり腰が引けてしまいました(笑)。大人になると、あれこれ考えすぎてしまい、新しいことに挑戦するのが難しくなるものですね。
それでも、挑戦はいつまでも続けるべきだと思っています。なぜなら、挑戦しなければ成長がそこで止まってしまうからです。
大人になると挑戦しづらくなる理由の一つに、「失敗したくない」という気持ちの強まりがあると思います。
医師の仕事においては、失敗は許されません。しかし、同時に常に成長し続けることも求められる職業です。(もちろん、失敗が許されないのは医師だけではありませんが、そのプレッシャーの大きさは特に実感しています。)つまり、「失敗は許されないが、挑戦しなければならない」という矛盾の中で働いているわけです。改めて、ストレスの多い職業だと感じます。
だからこそ、「失敗をしないために何もしない」のではなく、「失敗しないために準備や対策を徹底する」ことが重要になります。
これはヒアルロン酸治療にも当てはまります。
ヒアルロン酸治療において、患者さんにとっても施術者にとっても最も避けたい合併症は、動脈塞栓です。動脈塞栓とは、簡単に言うと、血管内にヒアルロン酸が詰まり、皮膚に影響を及ぼす状態のことです。重症化すると、皮膚壊死や失明といった深刻な症状を引き起こす可能性もあります。
合併症をゼロにする唯一の方法は、施術を一切しないことです。しかし、ヒアルロン酸治療は非常に有用であり、患者さんが理想の顔に近づくために欠かせない施術の一つでもあります。だからこそ、動脈塞栓を防ぐために、徹底した準備や対策が不可欠なのです。
具体的に、以下のような対策を行っています。
① 解剖の理解
血管がどこを通っているのかだけでなく、どの層を通っているのかも把握することが重要です。また、施術時の無駄な動きを減らすためにも、顔の構造を正確にイメージできるよう、日々訓練しています。
② アスピレーション(血管内誤注入の確認)
針の太さ、長さ、製剤の硬さによって、アスピレーション(血液の逆流を確認する作業)にかかる時間は異なります。その違いを把握し、意味のあるアスピレーションを行うことが重要です。例えば、血液の逆流に5秒以上かかるのに、1~2秒しか確認しなければ、事実上アスピレーションを行っていないのと同じです。また、偽陰性の可能性も考慮し、針穴の向きや深さを微調整しながら、確実に血管内に入っていないことを確認します。
③ 操作の慎重さ
ゆっくりと注入することで、動脈圧に勝って逆行性に眼角動脈へ塞栓するリスクを低減できると考えています。また、カニューレを使用して慎重に操作することで、血管内にカニューレが完全に入ってしまう「カニュレーション」のリスクも軽減できます。
④ ヒアルロニダーゼの準備
ヒアルロニダーゼは、ヒアルロン酸を分解する酵素です。万が一塞栓が起きた場合、速やかにヒアルロニダーゼを使用し、血流の改善を目指します。ただし、ヒアルロン酸は皮膚の表面から見えないため、正確な位置を特定することが難しく、必要な箇所に大量のヒアルロニダーゼを注入する必要があります。そのため、すぐに対応できるよう、十分な量を常備し、迅速に使用できるようシミュレーションを行っています。
このように、細かい部分まで徹底した対策を行なっています。これら4つの要素に加え、さらなる合併症リスクを低減するために、さまざまな工夫を行っています。
医療において、針を刺す以上リスクをゼロにすることはできません。しかし、リスクを限りなくゼロに近づける準備や対策は可能です。
日々の対策と準備を怠らず、常に成長し続けていきたいと思います。
「失敗しないために不可欠な準備と対策」
