たれ目院長ブログ 〜ヒアルロン酸のシリンジ(注射器)を0.1mm押すのにも全身全霊です。これ、誇張でも冗談でもなくマジです。〜

今日はどちらかと言えばドクター向けのマニアックな話です。

ヒアルロン酸注入治療をしているドクターはたくさんいます。美容医療に関わっている場合、多くのドクターはなんらかの注入治療は施術した経験があるのではないでしょうか。

その中で、今の注入治療を以前と同じように考えていてはいけません。かつてはボトックスもヒアルロン酸もただ注入する、とりあえずこの辺りに注射するか、という感覚で行われていました。注入治療はプチ整形として非常に軽い気持ちでお手軽に、言ってしまえばあまり勉強せずに片手間でも施術できるようなイメージがあったことは否定できません。

もちろん全てのドクターがそうではなく、ちゃんと勉強して丁寧かつ慎重に施術されていたドクターもいますが、プチ整形として簡単な施術である、という意識で施術しているドクターは少なからずいました。私が昔、実際にちょっとアルバイトをしていたクリニックもやはりその通りで、ヒアルロン酸なんてこの辺にうっておけば良いんだよ、と上級ドクターに平然と言われていました。

しかし時代は変わり、ヒアルロン酸注入の概念やテクニックは全く新しいものになりましたし、ボトックスについてもたくさんの情報が集まって、適正な使い方、より安全な方法に進化しました。医療は日進月歩というのは美容医療においても当てはまります。常に新しい情報をピックアップしていないと気が付いたら最先端の治療から遅れている、なんてことはよくあります。反面、新しいものが常に良いわけではなく、従来からの安定した治療が良い場合もありますが、注入治療においては明らかにこの数年で一気に進みました。

注入治療において最も避けるべきは血管内への誤注、それによる塞栓です。他にも合併症はあるのですが、ほとんどのものは改善することが可能ですし、最終的には溶解治療をすることで原因物質となるヒアルロン酸を体外から除去することが可能です。この事実は施術するドクターのみならず、治療を受ける患者様にとっても高い安心感にとつながるでしょう。なんと言っても元に戻れる治療というのはそうでないものに比べれば断然不安は下がります。

しかし、塞栓は一度完成してしまうと血流障害によって神経症状や皮膚壊死といった重たい症状が残ってしまうことがあります。そのため、塞栓の徴候が見られたら即座に躊躇なくヒアルロニダーゼで溶解するのが基本であり、それも一度でなく何度でも血流が改善するまで行います。例え注入から数日経っていて塞栓が完成していても溶解治療を行います。少しでもヒアルロン酸が溶けて少しでも血流が良くなる可能性があるのであれば何度でもトライし、被害を最小限に抑えるように努力します。

ただ、溶解治療というのはコトが起こってから行動するもので、被害を最小限に食い止めるための治療です。そもそもの話をすると、血管内への誤注がなければ塞栓は発生しないため、溶解治療も必要ありません。つまり、注入する瞬間こそがその後の重大な合併症を最も防ぐことができる瞬間であり、その時にこそ全身全霊を傾けて注意すべきなのです。

針先が血管に当たってさえいなければ血管内注入、それによる塞栓は起こりません。最近のヒアルロン酸は弾力が高いので、血管を圧迫することも悪影響としてあると言われますが、血管は一つのルートではなく色々な迂回路があるのでお、ほとんどの場合は一箇所の血流を止めてもすぐに血流障害、皮膚壊死などは発生しません。

結局のところ針先が血管内にあるかないかで塞栓が発生するかがほぼ決まります。逆に針先に血管が当たっていないことをなんらかの方法で確認できれば安全性は飛躍的に高くなります。さらに細かく考えると、針先が血管外であれば射出されたヒアルロン酸は針先を中心にヒアルロン酸のゾーン、スペースを作っていき、もし近くに血管があったとしたらそれを押し除けるようにヒアルロン酸のスペースが広がるはずです。(ある程度までは)

(上の図は注入されたヒアルロン酸が血管を押し除けながら広がるイメージです。)

つまりヒアルロン酸注入において最も大切な瞬間は、針を刺してヒアルロン酸を注入し始めるまさにその最初の瞬間、最初の一押しです。この瞬間にこそ最大の注意でプランジャーを押します。それこそ、ここで押すことに自分の命をかけられるか、万が一先端が血管内にあれば自分の人生が終わる、ちょっと極端ですがそれくらいの気持ちでシリンジを押してます。

押す瞬間に迷いがあったり少しでも不安なことがあれば押しません。針先に血管はない、そう確信してから押します。もちろんこれはそこまでの覚悟をしているという意味です。実際には100%安全と確かめる方法はありませんし、100%安全な治療というのも存在しません。でも確信しながら押すのです。100%はないけど100%大丈夫と確信して押します。ちょっと矛盾した表現ですが。ちなみに盲信ではダメです。確信して押すのです。

そのための方法やテクニックはあらゆるものを使います。アスピレーションは基本ですし、原則として針先を固定するのですが、あえて針先を動かして周辺に本当に血管がないか探ることもあります。セオリーからは外れますが応用テクニックです。

そうして針先周囲に血管がないことを確信し、命懸けでプランジャーを押し始めますがまだそれで終わりじゃありません。押して注入したヒアルロン酸量に見合った変化を確認します。わずか0.1mmでも、プランジャーを押した分のヒアルロン酸が押し出されるのでそれを感じます。そして、ヒアルロン酸が狙ったところにちゃんと入っていれば、注入量に応じた膨らみやその感触がありますので、アシストしている左手でそれを精密に感じ取ります。もしもヒアルロン酸の変化や感触がなかったり、逆に注入量以上の膨らみや注入部位以外の場所になんらかの変化がわずかでも見られたらすぐに手を止めて観察します。

注射器を押す瞬間までに色々なことを確かめて、覚悟を決めて押し始め、それがちゃんと安全な場所に入っているかを確認しながらまたシリンジを押し、それもまた確認しながら…、というようにシリンジを押している間それらの作業が無限ループします。

以上が針を刺してから最初の一押しをするまでの間、それから注入している間に私の頭の中で考えて実践していることです。側から見ていると、早くやれば良いのに、もう刺したならあと入れるだけじゃん、その入れるのも何モタモタとのんびりやってるんだ、とイライラするかもしれません。実は色々なことを考えながらゆっくりと慎重にやっているのですが、それを知らない人が見たら単純にのんびりやってて遅いな、とくらいにしか思わないことでしょう。

でも注入治療は早く施術しても良いことは一つもありません。早く施術すれば数をこなせるのでクリニックは儲かるかもしれませんが、安全性ということを考えれば早くて良いことは何一つありません。ラベールが最も重要視するのは「安全」、その次に「患者様の満足度」であり、そのために必要な技術や知識は限りなく高めます。

 

 

 

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