ヒアルロン酸合併症のサイン:痛みの観点から

今日は前回のダウンタイム、疼痛の話から派生して
合併症のお話をしていきます。

前回の一部おさらい
ヒアルロン酸のダウンタイム

痛みは2-3日をピークに1-2週間で改善していくことが通常の経過です。
その痛みも痛みで寝られないほどではなく、触れると痛みを感じる程度。

この通常から外れたときにはイレギュラーなことが起こっている可能性があり、
我々医療者はそれを捉える必要があります。

結論から言うと、イレギュラーな痛み方をしている場合は血管塞栓と感染を疑います。

ひとつずつお話します。

血管塞栓と痛み

血管塞栓とはヒアルロン酸が血管内に注入され詰まってしまう状態のこと。

詰まってしまった先には血流が流れず酸欠状態になるため、皮膚障害などの組織障害が起こります。

ここでは画像を出すことができませんが、
皆さんぜひ画像検索で「ヒアルロン酸 血管塞栓」と調べてみてください。
ヒアルロン酸注入でこんなことが起こるのです。

塞栓の治療法はヒアルロン酸を溶かす、ヒアルロニダーゼの投与となります。
酸欠になる時間が長ければ長いほど組織障害は重症化します。
そのため我々は早急に塞栓を発見し診断し、ヒアルロニダーゼを投与する必要があります。

塞栓の時の痛み方

これは聞くところによると、程度の話ですが

・痛みで寝られなかった
・ズキズキと痛みが増していった

痛みの程度が強く、増悪傾向にあることが多いです。

注入後に無痛なわけではないですが

・触らなければ平気
・我慢できるくらい
・鎮痛剤でコントロールできる

が通常と考えると、

塞栓のときの痛みは、やはり通常とは違う痛み方をすることが多いです。

ただ痛みというのは主観的なもので、
それを客観的に評価することは難しいです。

そこで重要なのが皮膚の色です。

皮膚が酸欠になると、皮膚は血色を帯びた肌色から、蒼白〜紫色に変色します。
このサインはかなり重要です。
痛む部位に一致して、皮膚色の変化がないか。
皮膚を押して離して、色が戻ってこれば血流があることを確認できます。
色が戻ってこない、もしくは他の部位と比べて明らかに遅いとなると危険なサイン。
塞栓を疑ってヒアルロニダーゼ投与に進むべき状況です。

そんなのわからない、判断できない!と思われた皆様、大丈夫です。
それを判断するのはドクターの仕事です。

痛み方がおかしい気がする、皮膚の変化はよくわからない。
これって連絡したほうがいいのかな?

心配な時は連絡してください。
可能であれば診察にいらしてください。

本当に塞栓を疑う場合は早急に処置が必要ですし、
問題なければ大丈夫そうだね、よかったね。でいいんです。

我々としてもメッセージのやり取り、写真では診断に限界がありますから、
実際に見せていただくことで我々も、患者さんも安心することができます。

感染と痛み

変な痛み方がする、2つ目は感染です。
注入したヒアルロン酸が細菌感染を起こしている状態です。

感染が起こっているの痛み方

これもまた聞くところによると、ですが

・痛みに加えて熱感がある
・すこし触れるだけでも激痛
・日に日に痛みが増す

塞栓の時と同様、痛みの程度が強く、増悪傾向です。
一方、塞栓との違いは熱感と時間経過です。

熱感

炎症の五徴というものがあります。以下引用

発赤、熱感、腫脹、疼痛、機能障害の5つの徴候。組織に急性炎症が起こると毛細血管は拡張し局所の血流が増加する(発赤・熱感の原因)。拡張した血管からは血液成分の滲出が起こり、組織に浮腫が起こる(腫脹の原因)。浮腫が起こると組織圧の上昇で局所は圧迫され、放出された化学伝達物質が「痛み受容体」を刺激する(疼痛の原因)

要するに赤く腫れて熱くて痛い状態、これが感染では起こります。
痛みの経過は塞栓と少し似ていますが、塞栓では赤く腫れて熱い、という状況にはなりません。
塞栓は赤くはならないのです、血流がないから。

時間経過

感染というのは、細菌が体内に入った直後からドカンと爆発的に発症するものではありません。
体内に細菌が侵入して、体内の免疫システムと細菌が戦い、細菌が勝ってしまうと感染が成立する。
というように時間をかけて細菌感染は起こります。

なので、注入してから発症するまでに数日かかるイメージです。
一方で塞栓の場合は、急に血流が遮断されるため、一気に症状が出ます。

塞栓は時間単位で症状が進行する中、
感染は半日〜日単位で症状が進行します。

 

まとめ

 

塞栓と感染は
「痛み方が強く、どんどん痛みが増す」という共通点があり
「発症するタイミングと見た目」に違いがあります

繰り返しになりますが、この判断は患者さんがしなくてもいいんです。
大丈夫かな?と思ったらまずクリニックに連絡してください。
そして自分の状況を伝えてください。

昨日寝れないほど痛かった。痛み止め飲んでも痛い。肌が紫色になってる。赤く腫れてる。

もう、書いてるだけで震えます。
すぐ見せてくださいってなります。

 

美容医療は魔法ではなく、良いことだけではありません。
医療である以上、万が一が起こりうるものです。
万が一を起こさない工夫と、
起こった時にいち早く対応できるような準備が重要です。
それは我々医療者だけではなく
患者さん自身に気がついてもらうことも大切です。
心配になった時にはいつでもご連絡ください。

それではまた。

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