「お客様?患者様?患者さん」

美容医療業界では、患者さんのことを「お客様」や「患者様」と呼ぶ傾向があります。私が保険診療から自由診療である美容医療の世界に入ったとき、まず違和感を覚えたのがこの点でした。

美容医療は保険診療とは異なり、患者さんに「このクリニックでこの施術を受けよう」と選んでもらう必要があるため、営業力も求められます。SNSを見ても、キャンペーンの告知や症例写真の掲載、「勉強しています」「こんなことをやっています」といったアピールが溢れかえっています。(もちろん、私自身もSNSで自分を発信しています。アピールしなければ、誰も私の存在に気づいてくれませんから。)
ただ、本来営業力は医師としてのスキルにプラスするものですが、現在の美容医療では営業が過度になりすぎている現状があります。そして、「売る側」と「買う側」に分かれることで、「お客様」という意識が医師側・患者側の双方で強くなっている傾向があるのではないかと感じています。

時折、「ヒアルロン酸1本でここにこう入れてください」「ボトックスをここに打ってください」と明確な希望を持って来院される患者さんがいます。そのこと自体は問題ありません。しかし、明らかに必要のない施術や、別の方法のほうが適していると思われるケースでアドバイスをしても、頑なに希望を変えない方もいます。中には、「なぜ言った通りにやらないのか。他のクリニックではやってくれた!」と怒り出す方も、まれにいらっしゃいます。
美容医療の世界に入ったばかりの頃、私は「なぜプロの意見を聞かないのか。それなら、その施術をしてくれたクリニックに行けばいいのでは?」と思っていました。(まだまだ未熟でした。) しかし、今は少し考えが変わりました。
現在の美容医療業界では、営業に力を入れすぎるあまり、情報が溢れ、何が正しいのか患者さん自身が判断しにくい状況にあります。目の前の医師も営業のために勧めているのではないか、と疑心暗鬼になってしまうのも無理はありません。また、「お客様」の希望通りに、必要のない施術でも行ってしまうクリニックがあるのも現実です。
こうした背景を理解してからは、一見わがままに思える患者さんの言動にも納得できるようになりました。

とはいえ、私はこの分野のプロとしてのプライドを持っています。
必要のない施術はしたくありませんし、たとえ患者さんが満足したとしても、医学的に間違った施術は行いたくないというのが本音です。そのため、なぜ必要がないのかを、とことん説明します。最初は頑なだった患者さんも、丁寧に説明を重ねることで次第に心を開き、私のプロとしてのアドバイスを受け入れてくれるようになります。
医者の仕事は施術だけでなく、カウンセリング、アセスメントという診察も医者の仕事です。

確かに、保険診療のように「完治」「寛解」といった明確なゴールがあるわけではなく、美容医療では人によって目指すべきゴールが異なります。しかし、私はそのゴールを患者さんと一緒に探し、そこに向かうための手助けをするプロでありたいと考えています。
そのため、「お客様」「患者様」という呼び方を否定するわけではありませんが、私にとってはやはり「患者さん」という表現が最もしっくりきます。

  1. 2025.02.05

    「お客様?患者様?患者さん」

  2. 2025.02.04

    あなたが考えるヒアルロン酸注入治療は新しい方ですか?

  3. 2025.02.04

    ヒアルロン酸、足し算の技術

  4. 2025.01.30

    口角を上げるにはどうしたらいい?

  5. 2025.01.29

    ほうれい線の治療は頬の土台治療から